さあああ、と静かな音が、意識を浮上させる。
ふ、と目を開け、エドワードはうつぶせていた顔を上げて気怠げに視線を動かした。
「……雨、か?」
「―――うん」
頭の上に、そっと軽い感触が載せられる。
「結構前から、降ってたみたい」
「…そっか」
髪を梳かれる感触に、また目を閉じる。
ベッドの上は先程までの行為の余韻を残していて、ひどく甘い気持ちにさせられる。
「…アル」
目を開いて髪を梳く指先を捕まえ、自分の指で絡め取る。
もぞりと体を横に向け、シーツの上で頬杖をついていたアルフォンスを見上げた。
「なあ、アル」
抱きしめて、と言うのは何となく照れくさくて、エドワードはそんなふうに名を呼ぶだけで抱擁をねだる。
「うん」
笑みを零して、アルフォンスは兄の体に腕を回す。
「───ん…っ、ぁ……」
汗の引きはじめた肌が触れ合う。
いつだって、何も言わなくても自分が望む絶妙の力加減で抱きしめてくれるアルフォンスのこの腕が、エドワードは好きだ。
「…ボクがこうするの、好き?」
アルフォンスの肩口に額を押しつけ、息を零す。
「ん…すっげぇ、すき」
鼻先をエドワードの髪に埋めたアルフォンスは、ちゅ、と小さな音を立ててキスを落とす。
「こうしてるときの兄さんって、すごく可愛いよね」
「…可愛い、って」
「何の気構えもしないで、甘えてくれて」
「!ぁ…っ」
耳朶を軽く咬みながら、アルフォンスはエドワードの背に指を滑らせる。
「…今だってほら、すごく無防備だ」
「ふ、あ…っ」
「すごく可愛くて、嬉しい。……うんと甘やかしてあげたくなっちゃうなぁ」
「アル、…っ」
身じろぎはしたものの、弟の腕はエドワードをホールドしていて、逃れることはできない。
とはいえ、エドワードも逃げるつもりは無いのだが、過敏になっている肌が単純な触れ合いからも快楽を拾い上げてしまうので、無意識に体が逃げを打とうとしてしまうのだ。
「逃げないで、兄さん。…もっと触らせて?」
つう、と背骨のラインを辿られて、ぞくりと肌が粟立つ。
体の奥にくすぶっていた熱が、上がり始める予感。
「んぁ…っ!」
エドワードが零した甘やかな声に、アルフォンスの体がかすかに震える。
ぽん、と体に火がついたのが解る。
「兄さん…」
長い髪をさらりと払って、エドワードの項に唇を押し当てた。
跡を残さない強さで、はむ、と咬む。
「あ、アル…っ」
「───ねえ兄さん、もう一回しようよ」
「ぁっ、も、っかい…?」
「うん、だめ?」
こつりと額を合わせられて、至近距離で瞳をのぞき込まれる。
「いぃ、けど…」
「けど、なぁに?」
「…オマエ、それで、足りる……?」
「…正直、お腹いっぱい、とは言えないかもなぁ。でも、あんまりしちゃうと兄さんが辛いでしょ?」
「……ん…っ!」
背骨を辿っていたアルフォンスの指が、腰よりも更に下───エドワードの双丘をゆるりと撫でる。
「もしオレが、へーきだから来い、って、言ったら…オマエ、もっとできるのか……?」
「んー、そうだなぁ…少なくとも3、4回は余裕だろうねぇ。今夜は雨も降ってるし」
「?なんで、雨と、関係が…」
「人肌恋しくなっちゃうのかなぁ…ボクね、雨の降る日って、いつも以上に兄さんが欲しくなっちゃうんだよね」
よく考えると結構とんでもないことを言っているのだが、何でもないことのように言ってみせたアルフォンスを見上げ、エドワードは黄金色の瞳をまんまるく見開いた。
「思い出してみてよ、兄さん。雨の降ってる日はいつも、ボクとシてるでしょう?」
言われて振り返ってみれば、確かに雨が降っているときには、いつも以上に弟の存在を近く感じていた。
体の中も外もとろとろに甘く蕩かされて、アルフォンスのことだけを考えて眠りに落ちる。
隙間なく抱き込まれた腕の中は、それはそれは心地よくて。
「だから今日は、いつもより兄さんを抱きたいって気持ちが強いんだ」
「そ、っか……」
「…だけどね。兄さんに…無理は、させたくないんだ。だから一回だけ」
「そんな、オレ…ヤワじゃねぇぞ?……それに、明日なら、」
「うん。まあ確かに、明日は執務もお休みだから、多少無茶しても平気かもしれないけど…」
足を少しだけ開かせ、双丘の奥にある蕾に、そうっと指を這わせて。
「兄さん、ボクに付いてこられる?きっといつもより、加減とかできないと思うけど」
「うぁ…あ…あぁっ!」
つぷ、と中に人差し指の先を潜り込ませる。
「アル、っ」
「大丈夫?ボク、もっと兄さんが欲しいって、言っても良い?」
ほんのりと色を乗せ始めたエドワードの頬に唇を寄せて、アルフォンスが問えば。
「ん…、来いよ……」
エドワードは小さく頷いた。
「───な、アル」
たどたどしく頬を撫で、弟にこそりと耳打ちする。
「オレだってさ。オマエが、何回だって、ほしいんだぞ?」
だから、遠慮なんかするなよ。
☆
くちゅ、と小さな水音が立つ。
「ぁ、あ……あぁん…っ」
少し前まで繋がっていたそこには、受け止めていたアルフォンスの熱が残されたままだ。
「兄さんの体温、移ってるね。あったかくなってる」
「ふ、ぅあ…ん、ぁ……っ」
柔らかさを残す蕾を、ゆっくり指で慣らす。
「アル…っ」
広い背に腕を回し、名を呼んでキスをねだると。
シーツの上に流れを作る長い髪をさらりと撫で、アルフォンスが顔を寄せてくる。
「ん、ぅ…ふ、…は…ぁふ」
触れて、啄んで、咬みついて。
差し出されたエドワードの舌を絡め取り、自分のそれで愛撫する。
時折蕾の中の指をく、と曲げてみれば、絡めたエドワードの舌がわななく。
そんな兄の反応が、アルフォンスは愛おしくて堪らない。
「ふぁ…ん、あ……ぁ…っ」
飲み込むことを忘れた唾液が、エドワードの口の端から零れて小さな流れを作る。
絡ませた舌をきゅう、と一度きつく吸い上げて、そうっと唇を離す。
「あ、る…?」
甘く蕩けた黄金色の瞳が、アルフォンスを見上げた。
「……兄さん、すごく可愛い」
「は、んぁっ」
もう一度唇を啄んで、零れた流れを追いかけて舌で辿り、首筋に顔を埋める。
「や、ぁ、アル…ぅっ」
どこか甘い匂いのする肌を甘噛みしながら上へと向かい、耳殻をぺろりと舐めた。
「アル、やぁ…そこ、は…っ」
「ここ、噛むのイヤ?」
「うぁんっ!ア、ルっ、あ…ぁっ」
軽く歯を立てれば、エドワードはびくりと大きく肩を跳ねさせる。
「…イヤじゃないよね、兄さん?そんなにイイ声、聞かせてくれるんだもん」
「んんん……っ!」
耳殻を噛んだまま低く声を吹き込めば、大きく震える敏感な体。
「ん、んぁ…あ……ふ、ぅっ」
「ゾクゾクしてきちゃう。…ね、ほら。解る?」
「───あ……っ」
兆して熱を持つ自分の腰を、エドワードに擦りつける。
「ふあ、ぁ…っ」
頬を紅潮させたエドワードが身じろぎ、自分の中にある弟の指を微かに締め付けた。
「…これ、兄さんの所為だからね」
「オレ、の…?」
「そうだよ。そんなに可愛くて、イヤらしいから」
ちゅ、と頬にキスを落とし、アルフォンスは笑みを浮かべる。
「ひ…ああぁっ!や、アル……っ」
「……ごめんね、苦しくない?」
「へ、ぃき……っ」
指を2本に増やし、中でばらばらに動かしかき回す。
「あぁ…ぁっ、ん、うああ…っ」
くちゅくちゅと抜き差しを繰り返すアルフォンスの指が、エドワードの奥のポイントを掠める。
「ぁっ、アルっ、アル……ぅっ」
「兄さん、いい…?」
「んっ…はやくっ、」
前に一度拓かれていることも手伝って、エドワードの体もいつもより早く熟れていく。
全く触れられることのなかったエドワード自身も、既に反り返る程に勃ち先端からじわりと蜜を滲ませていた。
「ふ、んう……ぁっ」
アルフォンスの指が、ずる、と引き抜かれた。
少し体の位置をずらし、綻ばせた蕾に自らを宛う。
「…挿入るよ?」
呼びかけにこくこく頷けば。
「───うあ…ぁ…ああぁっ」
押し当てられた熱の楔が、エドワードの中にゆっくり進入してくる。
指とは比べ物にならない質量と、最初だけはどうしても勝ってしまう圧迫感、それと絶対的な存在感。
「熱い、ね」
「や、アル…っ」
腰を進めながら浅く息を吐くアルフォンスに、エドワードは夢中で縋り付いた。
勝手に溢れていく涙を、熱い舌でぺろりと舐め取られる。
「兄さん、…痛い?まだ辛かった?」
「ぁっ、違…っ」
気遣うような声に、首を振る。
こんなふうに涙が零れるのは、痛みや苦しさによるものではない。
「いたくなんか、ない」
この、涙は。
誰より愛しい男を受け入れているのだという、歓喜。
「…だって、こんなに、アルが……近くに、いる」
弟の体温に侵され繋がれることが、これほどの快感と幸福感をもたらすのだと。
こうして抱かれるたび、エドワードは何度も思い知らされる。
「…だから、うれしいだけ、すごく」
きり、とアルフォンスが歯噛みする小さな音が聞こえる。
「……兄さん…っ」
「あっ、…んああぁっ!」
ぐちゅ、と深く繋げられて、堪えきれず嬌声を上げた。
「…どうしてそんな…嬉しいこと、言ってくれるかな」
「ひ……っ!」
濡れた指がきゅう、とエドワードの胸の尖りを摘む。
「や、アルやだ…!そんな、したら……っ」
「なぁに?ここ、弄られるの好きでしょう?」
ぷっくり勃ちあがった左の尖りを、指で挟んでくりくり捏ねまわす。
「んああっ!ぁっ、あああぁっ」
「弄りながら突いたら、兄さん…きゅうって締め付けてくるもんね」
「やぁっ、言うなぁ…っ」
「ん…ほら、今だって。ボクのこと、離したくないって言ってる」
かすかに笑って、アルフォンスがエドワードの頬に舌を這わせた。
「は、ふ…っ、アル…ぅ…っ」
「……ねぇ、兄さん。ボクもね、こうしてあなたと繋がってるの、すごく好きだよ」
濡れた黄金色をまっすぐのぞき込み。
「こうやって、兄さんに受け入れてもらえてる、ってことが、すごく嬉しい。…手を伸ばして、抱きしめてもらえることが、嬉しいんだ」
まるで猫が懐くように、するりと額と頬を擦りつけて、アルフォンスはふわ、と笑みを深くした。
「だから、あなたが好きなところ、いっぱい突いてあげる。…イイ声、たくさん聞かせてね」
「───っっ!」
紡がれた甘い声に、エドワードの全身が期待で震えた。
☆
「…っぁ、あ…あああぁっ!」
頭の中までかき回されているようだ、とエドワードは思う。
「や、アル…もっと……っ」
「ん…いいよ。もっと、だね…?」
「ひあ!あぁっ、ぁ…んあああっ」
アルフォンスは一番感じる場所を的確に、容赦なく突き上げて、エドワードから思考する力を奪っていく。
「兄さん…っ」
「あ……っ、は…んうぅっ」
ぎゅう、と熱い腕に抱きすくめられて、ただそれだけでも眩暈がするほどに気持ちがいい。
「すっごく、イイ声」
くつくつと喉を震わせ、少しだけ掠れた声でアルフォンスは呟く。
「イヤらしくて、甘くて……すごく、可愛い」
「は、ぁふ…んっ、アル…アルフォンスぅ…っ」
上手く呂律が回らなくて、蕩けてしまった声で弟を呼ぶと、琥珀色の瞳が細められた。
啄むように口づけられて、なぁに、と問い返す声が直接唇に囁かれる。
「ど、しよ、…すっげ、きもちぃ……っ」
「…どれが、いいの?」
「…ぜん、ぶ……」
繋がれて突き上げられている場所も、抱きしめる腕も。
汗の滲む肌の温度や匂いも、甘やかす声も目線も。
アルフォンスから与えられている、全ての感覚が。
「アル…、きもちぃ、よ……っ」
体温が上がり熱を帯びた指で、アルフォンスの髪や頬をまさぐるように撫でる。
「……な、オマエは…?」
「…ボク?ボクが、なに?」
「オマエ、も…きもちぃ?……オレだけじゃ、ない…?」
シーツの上で僅かに首を傾げ、どこか舌足らずに問いかけるエドワードに、アルフォンスは頷いた。
「───うん、気持ちいいよ」
「んっ、ぁ…あっ」
兄を抱きすくめていた腕をほどき、自分の腰を挟むように立てられていたしなやかな両脚のうち、右足を抱える。
「…熱くて狭いナカも、触れてる肌も……キスの時の唇も、ボクを呼んでくれる声も」
「……うぁ、ぁああっ」
「あなたがくれる全てが、気持ちいいんだ…」
きゅう、と膝の内側を少しきつく吸いあげて、いくつめになるかも解らない赤い跡を残し。
「ひ…あああぁんっ!」
そのまま右足を肩に掛けて、ぐうっと奥を抉るように突き上げた。
「ぁ…あっ、ん、は……っ」
「…ん、…っ」
絡みつく内壁に思わず眉をひそめたアルフォンスに、エドワードがしがみついてくる。
「…ル、アル…も、だめ……っ」
甘く熱い息を零しながら首を振った兄に、アルフォンスはキスで返す。
広い寝台がきしむ微かな音に混じって、繋げた場所からのぐちぐちと濡れた音が耳に入る。
それ以外で部屋の中にあるのは、窓の外の微かな雨音と、あとは二人の熱の篭もった吐息の音だけ。
エドワードの悲鳴を飲み込みながら、アルフォンスはすぐ傍の高みへ駆け上がる。
唇を塞いだまま、エドワードの中へ深く沈み込んだ。
「っん!───ぅっ、んんっ、く、…ん…んうううぅ……っ!!」
「……っ!」
びくびく!と大きく体が震え、二人の腹の間に熱が散る。
更にきつく狭まった内壁の奥で、アルフォンスも溜め込んでいた欲を放った。
「───んぁ…あ……は、ぁっ」
一旦唇を離し、肩に掛けていた右足も膝を立てさせるように下ろして。
甘怠い脱力感に任せて、アルフォンスはとさりとエドワードの体の上に倒れ込む。
「…ね。ちょっとだけ…このままで、いても、いい?」
「このまま、か…?腹、オレので、濡れてんぞ……拭くとか何か、しねぇと」
「やだ…このままが、いい」
荒い呼吸のままの甘えた声に、エドワードは笑って小さく頷く。
「ん、しょーがねぇな…来いよ、ほら」
広い背中を抱きしめて、弟の体重を全身で受け止める。
ぬるりとした腹の上はすこしだけ気になったけれど、すぐにどうでも良くなった。
普段より高めの体温と、とくとくと少し早めの鼓動が重ねられて、エドワードは思わず吐息を零す。
「ふ……ぅっ」
「…重くない?」
「ん、全然。…つーか…なんか正直、ほっとするし」
これはエドワードが望んで憶えた重さで、むしろこの体温と重みの無い方が寂しいくらいだ。
余計な心配すんな、と短い髪をぐしゃぐしゃかき混ぜると、何するのさ、と笑い声で返された。
体はまだ繋がっていて、そのうえエドワードの中にいるアルフォンスは、達したとはいえまだ十分に熱さも硬さも保っている。
エドワードの方は少しだけ落ち着いているので、弟が動かずにいてくれるのはありがたいが、同じ性を持つ男としてはなんだか申し訳ないような気持ちもわき上がってくる。
「……とろとろだね」
主語が抜けていても、今のこの状況でそんなふうになっている場所は限られている。
「…誰かさんので、いっぱいだからな」
何でいっぱいなのか、というのも、今更言う必要もないだろう。
「……しかも、なんかまだ余力ありそうだし」
「だって兄さんの中、すっごく気持ちいいんだもん」
「ふ…ぁっ、」
ふんわりと蕩けた笑顔で、く、と小さく突き上げられる。
「ちょ、…ア、ル……っ」
「───ねぇ兄さん、ボクちょっと思ったんだけどね」
その笑顔のままで、長い指がするりとエドワードの唇を撫でた。
「ん、ふ…っ」
「…このまま、兄さんと一つに蕩けてしまえたら。どんな感じなのかな」
低く囁かれて、ぞくりと体が震える。
「どう思う、兄さん…?」
尋ねられて、エドワードはアルフォンスの背中をもう一度抱きしめ直した。
「…っ、そりゃ、すっげぇ、気持ちいいだろう、けど……っ」
別離への不安も、心変わりの心配もすることなく。
唯一の感情を注ぐ相手と何もかも蕩けあえる幸福は、きっと言葉で言い表すことなど出来ないだろう。
「…だけど、蕩けちまったら。───オマエとはもう、こんなこと、出来ねぇよな…?」
肌を合わせて交わることも、強い腕に抱きすくめられることも、挨拶代わりにキスを贈りあうことも。
こみ上げる想いを乗せ、視線を絡めて。
だいすきだよ、と笑うことも。
すべて二人でいるからこそ、出来るものだから。
勿論、快楽だけが全てではないけれど。
「オマエに、キスもハグもできない、ってのは……やっぱ、ちょっと、さみしいかな」
「……兄さん」
「だからこのまま…オマエと別々でいいや。うん、その方が良いよ、オレ」
わらってそう言いきったエドワードに、アルフォンスは胸を叩かれた気がした。
とくり、と鼓動が跳ねる。
「───そうだね」
どうしてこのひとは、いつだって自分の考えを上回る言葉をくれるのだろう。
「ボクが兄さんと別々の存在だから、こんなにあなたを欲しいって思うんだものね」
「あー…ま、そういうことだな、要は」
ちょっとだけ照れて頷いた兄の唇を、掠めるように啄んで。
「…予想以上のことが聞けて、嬉しかった。───ありがとう、兄さん」
☆
抱き起こしたエドワードの体を、自分の膝の上に乗せた。
「───ぅ、あっ!んっ、やぁっ、やあああぁっ!」
アルフォンスの背に、エドワードの爪がきゅう、と食い込む。
確かにそれは痛みなのだけれど、それでも兄から与えられたのなら、アルフォンスには愛おしいものでしかない。
「ひあっ、ん、はっ、あ…ああぁっ、く、ああ……っ」
過敏になった器官を何度も擦り上げられて、エドワードが涙をこぼす。
突き上げるたびに、体内に吐き出されたアルフォンスの精液が小さく音を立てて溢れ、エドワードの内股を汚していく。
「…兄、さん……っ」
「っあ!…ふ、ぁ…あっ」
反らされた白い喉に咬みついて、やんわり歯を立てながら上に這い上がる。
「んあ…あっ、アル…ア、ルぅっ」
エドワードの啼き声は回数を重ねる毎に甘く掠れ、舌足らずになっていく。
アルフォンスだけが知っている、兄の甘く乱れた、卑猥な姿。
「兄さん、ねぇ兄さん…好きだよ、あなたが……っ」
「…は…っ、あぁっ、ひ…ああぁっ」
「……大好き。…あいしてる、兄さん」
「あ……っ、んああぁっ!」
耳元で言葉を落とし、アルフォンスはエドワードの腰を引き寄せ、奥を穿つ。
くぷん、と水音が立って、またエドワードの内股が白く濡れた。
「やぁっ、深…ぁっ」
「だめだよ、兄さん…逃がして、あげない…っ」
強すぎる快感から無意識に逃れようとする兄の体を、きつく抱いて。
「ひ……っああああっ!や、だめ…そんな、したらっ」
「…イッちゃいそう?」
「ん…っ、く……ああぁんっ!」
「…っ、いいよ、イッても」
「ふああっ!あ、あぁ…っ」
言いながら、アルフォンスはエドワードの奥のポイントをぐちゅぐちゅと音を立てながら突き上げる。
「やあっ、ん…ぁ、アルも、いっしょ……っ」
ふるりと首を振って縋り付き、エドワードは弟の唇を啄んでねだる。
「な、アル…っ、ぜんぶ……いっしょ、が、いぃ…っ」
はふ、と息を吐くエドワードの唇を、アルフォンスは微かに笑みを零して啄み返した。
「うん……じゃあ、一緒に、ね」
何度だって、あなたにボクをあげる。
☆
眠りに落ちる寸前のエドワードの頬を、指で撫でる。
既に成人を迎えているとはいえ、子供の頃の幼い柔らかさを残した兄の頬は、いつまででも触っていたくなる。
時刻はおそらく夜半を越えて、一刻もすれば夜明けの鳥が啼こうかという頃合い。
請うたびに体を拓き応えてくれたエドワードのおかげもあって、アルフォンスの中の欲情の波は穏やかだ。
けれど雨はまだ静かに降り続けていて、止む気配を見せない。
優しい雨も、厳しい雨も知っているけれど。
雨の音は、世界を遮断する役割も果たしているのだとアルフォンスは思う。
いくつもの小さな世界に切り取り分けて、まるで自分がこの世にたった一人取り残されてしまっているかのように。
ほんの少しの、寂しさを。
だから声を聞いて、体温を感じて。
ただ一人、愛している兄に、いちばん傍にいて欲しいのだと。
───誰よりも自分を愛してくれている人に、愛されていることを思い知らされたいのだと。
だから雨が降るたび、アルフォンスは兄に甘えて触れる。
「…兄さん」
「……ん、っ」
啼かせすぎてほんのりと赤みの残った目元に、軽く口づけて。
「目が覚めたら、たくさんキスしようね」
唇はもちろん、頬や瞼や指先にも。
あなたが望んでくれるなら、どこにだって、いくらでも。
「雨が止んでも、ずっと、数え切れないくらい。キスもハグも、あなたを好きだって言葉も」
この体の中に溢れてとまらない、エドワードへの想いを。
「たくさん、あげるから」
「…ったら、オレにも…言わせろ」
うめくような小さな声で、エドワードは言う。
閉じられていた目が少しだけ開かれて、黄金色の瞳がゆるりとアルフォンスを捉えた。
「…アルだけ、いうのは…ずるい。オレだって」
頬を撫でていたアルフォンスの指を捕まえて、自分の指で絡め取る。
「あした、は…ぜったい、はなれてやんねぇ、からな。……かくご、しとけ」
───愛してる、アルフォンス。
意識しなくても勝手に出てくる、とびきり優しくて、甘い声で。
顔を埋めた弟の首筋で呟いて、エドワードは目を閉じた。
繋いだ指とエドワードの背を抱く腕に、力がこもって。
「…ボクだって、離れてなんかあげないよ」
アルフォンスが落としたささやきに、夜が明けて目を覚ましたエドワードがどう応えたのか。
すべては二人と、窓を優しく叩いた雨だけが、知っている。
「ふたりきり」───”レイニーデイ”
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