キャリーバックの中から出された兄にゃ。
よろよろよろと居間を横切って、長座布団の上に、ぱたりと倒れこむ。
「…兄にゃん?」
振り向いた兄にゃの目は、涙でうるうる潤んでた。
「ドコ行って来たのにゃ?」
「び、病院にゃ」
飼い主さんの、愛のある健康診断。3種ワクチン接種、歯石取り、耳掃除、肛門腺。
アルにゃは先週連れて行かれた。しかし兄にゃは逃げたのだ。
「あのとき、逃げたりするから……」
「だってオレが逃げたら、アルにゃも連れて行かれないと思ったのにゃ!」
しかし飼い主母さん、じゃあ今日はアルだけでいいや、とさっさと一匹だけ病院に連れて行ったのだ。
そして今日、兄にゃは猫じゃらしで誘導されてとっ捕まり、どうせならいい獣医さんを開拓しようと、弟とは別の病院に連れて行かれたのだった。
「アイツ、ヘタクソにゃ。体温計、乱暴に突っ込まれたにゃ。すごーく痛かったにゃ。まだひりひりするにゃ」
アルにゃが兄にゃのオシリの匂いをかいでみると、病院の「しょうどく」の匂いがした。
オシリは赤くなって、ちょっと腫れてるっぽい。
かわいそう、とアルにゃは兄にゃのオシリの赤くなっているところを、ペロペロ〜っと舐めてあげる。
兄にゃ、びっくりして体を強張らせ、尻尾がぷわっ! と太くなった。
「なななななにするにゃーっ!!」
「早く良くなるようにと思って」
「ひりひりしてんのに、触られたら痛いだけにゃ!」
兄にゃは更に金目をうるうるさせ、涙が零れ落ちそうになった。
「兄にゃん、大丈夫?」
「……大丈夫じゃないにゃ。オシリも痛いけど、なんだか体がダルいにゃん…」
きっとワクチンのせいだ。アルにゃを診てくれた動物のお医者さんは検温も注射もとっても上手だったが、先週病院から帰ってきたとき、やっぱり体が辛かった。
「兄にゃん、いっぱい寝たら、辛くなくなるにゃ。大丈夫にゃ。オシリのひりひりも、きっと治ってるにゃん」
「……うん…」
頷きながら耳を下げて、白いひげと尻尾も下げる。
長座布団にぐったりと身を投げ出し、自分の手を枕にして兄にゃは目を閉じる。
ぎゅっと閉じたら、涙が零れた。
アルにゃは兄にゃんの側にぴったり寄り添って、早く良くなれ〜、早く良くなれ〜と、涙が零れた目元を、ざりざりと何度も舐めた。
ついでに耳も舐めてあげた。(←趣味)
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