兄にゃが吐いた。
上手に毛玉を吐けるよう、ちゃんと猫草を飼い主母さんは二匹にあげていたのだが、吐いた場所が悪かった。
買ったばかりのお布団の上に吐いたのだ。
どんなに嫌がられようと、押さえつけてでもやる! と飼い主母さんは以前やって不興を買った抜け毛とりを取り出した。
「アル見るにゃ! 母さん、『アイツ』を手にしてるにゃ!」
ピンク色のラバーブラシと、髭剃りみたいな形をした青いアンダーコート取りのファミ。
二匹ともコーミングは大好きだが、抜け毛を根元からごっそり取られるラバーブラシとファミをされるのは嫌いだ。
「逃げよう、兄にゃん!」
「右と左にわかれるにゃ、無事に逃げられたら、いつもの秘密基地で会おうにゃん!」
ぱっと逃げ出すにゃんこ兄弟。アルにゃは左に、兄にゃは右に。
飼い主母さんはエドにゃに標準を合わせたようだ。
簡単には捕まらないにゃ! と跳躍力を発揮して、タンスのてっぺんに登った。これなら届かない。
勝った、と下を見下ろした時だった。
先っちょに細くて短いリボンがついたふわふわの猫じゃらしを、床の上でぱたぱた振られた。
……あれは罠にゃ。その手には乗らないにゃ。
しかし兄にゃん、目が離せない。リボンが揺れる。ひらひら揺れる。ふわふわの猫じゃらしが、ぱたぱた揺れる。右に行ったり左に行ったり。ぱたぱた、ぱたぱた…。
兄にゃん、思わずタンスから飛び降り、猫じゃらしに手を出してしまった。
右手でちょいちょい、左手でちょいちょい。ついには寝転んで、ふわふわの猫じゃらしをガジガジ。
二手に分かれて逃げようと頭脳プレイに打って出たわりにはあっさりとっ捕まり、ラバーブラシを掛けられ、ファミを掛けられた。
「イヤにゃ〜、イヤにゃ〜、イ〜ヤ〜にゃ〜!」
じたばたと抵抗したが、首根っこを押さえられて身動きがとれず、「にゃーにゃー」と鳴いて訴えても、抗議は黙殺される。
ごっそり毛を取られ、抵抗する気も失せてから、ようやく開放された。
体は軽くなったが、なんだかスースーする。スースーして落ち着かない。さっぱりしたけど、もっていかれるあのカンジがいつまでも体に残ってる。
ブラシを掛けられた体を舐め直しながら、兄にゃんはアルにゃが無事に逃げられて良かったと思った。
次はアルにゃの番だ。
兄にゃんと違い、アルにゃは猫じゃらしでは釣れない。でも飼い主さんには必殺技があった。
がさがさがさ、と音を立てて家の中を歩く。部屋の真ん中にそれを置くと、飼い主さんは何処かへ行ってしまった。
ほどなくして、秘密基地に無事たどり着いたアルにゃが戻ってくる。
兄にゃん、来なかった。ひょっとして捕まった?
「兄にゃ〜。どこ〜? 兄にゃ〜」
にゃーにゃー鳴いて兄にゃを探す。でも返事がない。
「兄にゃ〜」
部屋に入ってキョロキョロし、アルにゃはそれに気が付いた。
魅惑の茶色い紙袋。
……罠にゃ、と思いつつ、ゆっくり近づく。
そっと手でつつくと、がさっと乾いた音がした。ちょんちょん、とつつくと、がさがさっと土色の紙袋はまた返事をする。
入り口から覗き込むと、中は狭くて薄暗かった。
入りたい。
うろうろと袋の入り口を、行ったり来たり。
入りたい入りたいと尻尾をパタパタ。
うずうずが抑えられなくて、そっと足を踏み入れてみる。中は快適で、アルにゃは更に一歩、もう一歩、あと一歩だけ、と奥へと入っていく。
腰を落として丸くなると、なんだかすごく落ち着いた。
気持ちいいにゃー、と目を細めたときだった。
「つ・か・ま・え・た」
飼い主さんが入り口から中を覗いていた。
しまったにゃ、と逃げようとしたが唯一の脱出場所である入り口を閉じられ、袋ごと連れ去られた。
あっさりとっ捕まったアルにゃは、ラバーブラシを掛けられ、ファミを掛けられる。
「イヤにゃ〜、イヤにゃ〜、イ〜ヤ〜にゃ〜!」
じたばたと抵抗したが、兄にゃんと同じように首根っこを押さえられ、「にゃーにゃー」と鳴いて訴えても、抗議は黙殺される。
ごっそり毛を取られ、抵抗する気も失せてから、ようやく開放された。
体は軽くなったが、なんだかスースーする。スースーして落ち着かない。さっぱりしたけど、もっていかれるあのカンジがいつまでも体に残ってる。
兄にゃんもやられたのかな…、とブラシを掛けられた体を舐め直しながら、アルにゃは思った。
いっぱい取れた2匹のふわふわの毛を、飼い主母さんは丸めてボールにすると転がしてやる。
アルにゃは何処からか現れた兄にゃんと、お互いの匂いがするそのボールでちょっとだけ遊んだ。
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