「兄にゃんに舐められるの、すき」
アルにゃはいつも言う。
兄にゃがペロペロ舐めるとアルにゃはいつも目を閉じて、ごろごろと喉を鳴らし、尻尾の先をぱたぱたと揺らすのだ。
だからいっぱいいっぱい舐めてあげる。
アルにゃが好きだ。大好きだ。
猫じゃらしのふわふわよりも、狭い箱よりも、美味しいカリカリよりもアルにゃが大好きだ。
だからアルにゃが喜ぶことをいっぱいしてあげたい。グルーミングのお手伝いをしてあげたい。
猫は顎の下を舐めれないので、黒っぽいアクネというものが出来たりする。猫ニキビとも言われたりする病気だ。
でもアルにゃにはそんなの出来ない。
いつも兄にゃが、きれいに、きれいに舐めるから。アルにゃを守ってあげるのは兄にゃの役目だと、エドにゃはいつも思ってる。
兄にゃの顎にもアクネはできない。アルにゃが舐めてくれるからだ。兄にゃを守ってあげるのは僕の役目だと、アルにゃもいつも思っていた。
今日も兄にゃはアルにゃの側にぴったりと寄り添い、ペロペロと舐め始める。
顔や耳、顎、そして背中を舐めた。ペロペロ、ペロペロ舐めたときだった。
「エド! やっぱりあんたが犯人だったのね!」
いきなり引き離され、飼い主母さんは自分の目の高さに兄にゃの体を持ち上げて、叱った。
「アルを好きなのは分かるけどあんなに舐めちゃダメでしょう、エド! アルの背中をよく見なさい!」
母さんに言われて見た背中。執拗に舐められたアルにゃの其処には、小さなハゲが出来ていた。
「舐めすぎてもダメなの。ほどほどにしなさい」
がーん がーん がーん…
兄にゃはショックを受け、自失呆然。アルにゃはもしかしたら皮膚病が原因かもれないからと、一応病院に連れて行かれた。
母さんは最初からエドにゃを疑っていたが、ひょっとしたらアルにゃがストレスを抱えていて、それが原因なのかもしれないと、ストレス原因説はありえないと思いつつも、ハゲを見つけてから二匹を見張っていたのだった。
病院で薬を塗られ、帰ってきたアルにゃの首には、透明なエリザベスカラーが着けられていた。
そして兄にゃにもエリザベスカラーが着けられた。少しでもアルにゃを舐めにくいように、と。
アルにゃも兄にゃもカラーを着けられたせいで、お互いに近づけない。ぴったりくっつけない。
「兄にゃーっ」
「アルにゃ…」
お互いに近づけないだなんて、ぴったりくっついて一緒に寝れないだなんて。
もう二度と舐めすぎないから。
いっぱいペロペロしないから。
ちょっとだけにするから。
一箇所を集中して舐めないから。
だから早くアルにゃのハゲが治りますように。毛が生えてきますように、と兄にゃは祈った。
発見が早かったので、程なくしてアルにゃの背中には無事に毛が生えてきた。
あんまり手間掛けさせんな、と母さんは溜息をついた。
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