部屋の畳の上に、何かが置いてあった。
兄にゃんは傍によって、くんくんニオイをかいでみる。
何か食べ物が入っていたんだろうか? いいにおいがする。
部屋に置いてあったのは透明な瓶だった。
中身のものが取り出し易いよう、斜めになったそれは、蓋の口も斜めの場所についている。瓶は捻らなくても簡単に蓋を取り外しできるようになっていて、猫が1匹入るのにちょうどの大きさだった。
端っこ大好き、狭いとこ大好き、箱大好きの兄にゃは、当然中に入る。
いつもと違ってなんだか表面がつるつるしてるし、中に入っても「とうめい」だから周囲が見渡せる。開放感と同時に閉所感も味わえるなんて、なんだかすごく不思議だった。
トコトコトコ、とそこにアルにゃがやってきた。
兄にゃの姿を見つけて歩み寄ると、不思議な「とうめい」の箱の中にいる。
狭いところ好き、箱好き、兄にゃん大好きのアルにゃは、当然のように兄にゃんの傍に行くべく、中に入ろうとした。
でも瓶の中は猫が1匹入るのにちょうどの大きさ。……アルにゃまでは、ちょっとムリ。
しかしアルにゃは諦めない。兄にゃの隣は、アルにゃの場所なのだ。
入り口から狭い中にまっすぐ入ると瓶の壁にぶち当たる。このままでは入れないので、瓶の中で体を捻った。兄にゃは瓶の壁に、顔と耳をぎゅうぎゅう押し付けられる。
「に、にゃっ」
「もうちょっとにゃ。兄にゃん、協力してにゃ」
「してる、にゃっ。うぐぐぐ…」
しっぽだけを出して、後ろ足を全部入れることが出来たアルにゃは、今度は瓶の突き当たりで体の向きを変える。だってこのままでは、兄にゃの顔が見れない。同じ場所に体だけをくっつけて入ればいいってもんではないのだ。
アルにゃが少しでも向きを変えやすいよう、兄にゃは瓶の口から顔を出す。
少しだけ出来た隙間を利用して、とうとうアルにゃは体を180℃回転させることに成功した。
「兄にゃ。入ったにゃ」
顔だけ出していた兄にゃも、瓶の中に顔を戻す。
体も顔も、狭いところでものすごくぴったりくっついて、瓶の中はぎゅうぎゅうだ。でもなんだか不思議なつるつるの箱の中を二匹で体験できるのがちょっぴり幸せだった。
2匹で瓶の中から外の世界を見る。
いつもと同じ風景なのに、なんだかちょっとアチコチ歪んでて楽しい。
「この中楽しいにゃ」
兄にゃの言葉に、アルにゃも、にゃーと同意する。
「でも入るの、ちょっと大変にゃね」
「もうちょっと大きいといいのににゃあ。でもいいにゃ。アルとすごくくっつけるにゃ」
アルにゃは嬉しくて、すぐ目の前にある兄にゃの目元を舐めた。すごく狭くて引っ付いているので、舌を出しただけで兄にゃの顔を舐めれた。
くすぐったくて、兄にゃは片耳をぴくぴくさせる。
「うわああああ! なにやってんの、あんたたちっ!」
「とうめい」な箱に入ってるところにゃ、と部屋に入ってきた飼い主母さんに向かって「にゃー」と鳴く。
「そうまでして2匹で入るな! なんで入るのよ!」
そこに箱があるからにゃ、と登山家みたいなことを兄にゃが鳴いて答えた。
「あんたたち……どうやってそこから出るつもり」
そういえば出ることは考えてなかったにゃ、と2匹は顔を見合わせた。
でもきっと大丈夫にゃ。なんとかなるにゃ。入るよりも出るほうが簡単にゃ。
後先のことをあんまり考えない兄弟は、楽天的に「とうめい」な箱の中からの風景をいっぱい楽しんだ。
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