兄にゃはよく舌を出したままにする。
ぺろぺろ〜っと身繕いをしているときに、ふと何かに気を取られたりすると、そのまま舌をしまい忘れてしまうのだ。
「ちょっとエド。舌をしまい忘れてるよ」
「にゃ?」
飼い主母さんの言葉に、兄にゃは真面目な顔をして首を傾げる。
「だから、舌が出っぱなしだってば。乾くよ」
「なんかくれるにゃ?」
「いやだから、舌が」
そう言って飼い主母さんが、ちょこんと出ている赤い舌を指先で触ると、兄にゃはようやく気付き、舌を引っ込めるのだった。
兄にゃん、今日もせっせと身繕い。
物音がしたのでふと窓の外に目をやり、たった今降り立ったスズメを見た。
ちょこちょこ動くスズメを、じっと見る。
やがてスズメは飛んでいって兄にゃは興味を失ったが、毛繕いをしていたことなどすっかり忘れ、舌を出したまま口を閉じて、兄にゃは香箱座りをした。
「またしまい忘れてるにゃ」
そんな兄にゃを見て、アルにゃは笑う。真っ赤な舌が、ちょこんと出ている。
可愛いにゃ〜。可愛いにゃ〜。ホントに可愛いにゃ〜。
トコトコトコとアルにゃは兄にゃんに歩み寄る。気付いた兄にゃは顔を上げて香箱を崩すと立ち座りをした。
「兄にゃん、またしまい忘れてるにゃ」
首を傾げるエドにゃ。
「舌。忘れてるにゃ」
アルにゃは兄にゃの顔に自分の顔を近づけると、赤い舌を出して、兄にゃのちょこんと出ている舌を、ぺろりと舐めた。
「にゃっ!」
舌が出ていることにも気付いてなかった兄にゃは、びっくりして耳をぴんとさせ、しっぽをぶわっと大きくさせた。
耳としっぽを見て、アルにゃはまた思う。
可愛いにゃ〜。
喉をいっぱいゴロゴロさせて、兄にゃに耳と顔をすり寄せる。
すり寄せてすり寄せて、すり寄せすぎて、アルにゃは兄にゃもろとも後ろにひっくり返った。
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