最近、アルフォンスがちょっとヘンだ。
何かというとエドワードを抱きたがる。
毎日毎日、抱きたがる。
最初は、甘えたいんだろうかなんて思って求められるまま躰を開いてきたが、こう連日だとさすがに体力に自信があるエドワードでも辛い。しかも毎夜一回じゃ済まず足腰が立たなくなる寸前まで抱かれる日もあったりして、そろそろ限界だった。睡眠時間的にも。
発情期なんだろうか?
今日こそ拒もうと毎回思うのだが、拒めば拒むほどアルフォンスを刺激するらしく、そんな日ほど激しく抱かれる。
これはもう避けるしかない。少し頭を冷やさせて、「発情期」が終わるのを待つしか。
お風呂からあがって髪を乾かし終えたエドワードは、よし、と呟く。
「今日こそ拒んでやる」
家中の電気を消して、しばし考え、リビングの明かりだけをもう一度つけて、自分の部屋へと向かう。まだ眠るには早い時間だったが、構うことは無い。さっさと寝よう。
ベッドに潜り込むと、頭から毛布をすっぽり被った。
最初の作戦は、出来るだけアルフォンスとの接触を避けようと帰宅時間をずらすことだったのだが、弟はエドワードを抱くために帰りを深夜まで待っていて、効果がなかった。
次にやったのが、そういう雰囲気にならないようにすることだ。――全然効果がなかった。
格好にも気を使った。シャツのボタンを一番上まで留めるとか、パンツ姿でうろうろしないとか。これもやっぱり、効果がなかった。
昨日はアルフォンスを先に風呂に入れ、次に入った自分は鍵を掛けて長風呂をした。本を持ち込めば二時間くらいは飽きないで入っていられる。待ちくたびれて先に寝るかと思ったのだが、深夜まで帰りを待つ人間が長風呂くらいで諦めるはずもなく、錬金術でバスルームの鍵を壊して入ってくると、裸のエドワードを湯船から強引にサルベージしてベッドへ連れて行ったのだった。
今日のアルフォンスは残業で遅くなるらしい。帰って来るときにこっそり弟の職場を訪ねて、事務の女の子に聞いてきたんだから間違いない。
頭がいいくせにセコイ作戦しか思いつかないエドワードは、きつく目を閉じる。
今日の作戦は、先に寝る、だ。
早く寝なければ。
しかし不思議なもので、寝よう寝ようと思うほど、目は冴えてゆく。寝不足なはずなのに。
なかなか寝付けずにいると、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。どうやら残業は予定よりもだいぶ早めに終わったらしい。リビングでしばらく物音がしていたが、やがて足音がこの部屋へと近づいてくる。
やばい。来る。
とにかく寝たフリ、と目を閉じて動くのを止める。
案の定、アルフォンスは自分の部屋へは行かず、エドワードの部屋のドアノブに手を掛けた。
なんだかドキドキしながら、エドワードはじっと息を潜める。
弟は歩み寄ってくると、ベッドの端に座り、毛布をめくってエドワードの頬にキスをした。指先で額を露わにするように髪を撫でて、今度は唇にキスをしてくる。
いくらアルフォンスでも眠りについているのをわざわざ起こしてまでしないだろうと思って大人しくしていたが、髪を撫でていた指が首筋を触り、肩や胸をなぞり、やがてパジャマの裾から手を入れて直接肌を触りだした。
合わせられた唇も、ただの挨拶のようなくちづけではなく、官能を引き出すような深いものへと変わり息が苦しくなって、とうとうエドワードは寝たフリを続けられなくなった。
「……っ、こ、の、やめ……んむっ」
じたばたと抵抗し、ようやくアルフォンスの身体を押し返すと、ぜはぜはと肩で息をした。
「なにしやがんだこの野郎! 寝てる人間をわざわざ起こすな!」
「寝てないじゃん」
「寝てただろ!」
「フリしてただけでしょ」
「なんでわかった」
「兄さん、僕に嘘つくのヘタだよ。ところでさ、リビングの電気をつけっぱなしにしてたの、なんで?」
「家ん中に待ってる人がいるのに、疲れて帰ってきたときに真っ暗だったら可哀想だろ」
アルフォンスは破顔する。
「嬉しいなぁ。なんか、深い愛を感じる」
エドワードの頬を撫でると、本格的に体の上に乗りあがってきた。
「うわっ、ちょ」
パジャマの裾を大きくたくし上げて、胸の突起を摘まむように弄られる。体中を撫でられ性感を刺激されて、不覚にも喘いでしまった。
それでも抵抗しようとしたら手首を掴まれ、ベッドに縫い付けられる。アルフォンスは体をずらして今度は舌と歯で胸への愛撫を始めた。
拒もうとしたのに、疼くような快感がどんどん奥の方に溜まっていって、体がアルフォンスを求め始める。声を上げれば弟を煽るのが分かっていたから、時々息を止めて耐えていたが、そのせいでどんどん呼吸は乱れた。
「…は…っ、…お…おま、え……どうしたん、だよ」
「なに…?」
「なにじゃ、ねえだろ。……ここんとこ、毎晩…毎晩……っ」
「あなたが欲しくて」
「オレの体のことも、考えろ」
「考えてるよ、ちゃんと」
「どこがだよ」
愛しげに肌を撫でて、囁く。
「愛してる……」
指先が滑り、下肢を這う。脚の付け根を辿り、体の中へと。
「う……」
瞼をきつく閉じて、アルフォンスの腕にしがみついた。
アルフォンスは指をすぐ抜くと枕の下から潤滑剤を取り出し、指に抄い取るとまた中へと入れてくる。入り口を入念に濡らして開いてゆく。違和感に耐えていると、指はさらに奥へと入ってきた。
体の中の感じる場所で指先を折られ、喉を晒すように上体を逸らして甘い声を洩らす。
そんな様子を見ていたアルフォンスが、口を開いた。
「…兄さん。いま、郵便局で手紙のキャンペーンをやってるの、知ってる?」
「………………は?」
全然脈略がなくて、最初、なんのことだか分からなかった。
「手紙を出して好きなあの人に告白しようっていうキャンペーン。今年から始まった、郵便局の、利用促進の」
「……知らね、え。それが、なに……」
「軍内で、地味に流行ってるんだ。……兄さん、想像以上にモテるよね」
「……オレんとこに、手紙なんて…来、ねえ…よ……」
「僕のところに来てるんだ。住所が分からないからお兄さんに届けてくださいって。……男からのもあった」
「知……るか……っ」
そういうおまえはどうなんだ、と言ってやりたい。アルフォンス宛の手紙が一通もなかったとは言わせない。
「兄さんをみんなが見ている前でこんなふうに抱いたら、誰も手を出そうと思わなくなるかな」
「てめ……ホントにそんなこと…やってみろ、許さ、ね」
「愛ゆえだよ」
「どこがだよ……! 愛を感じる、行為か、それが……っ」
アルフォンスは指を引き抜く。エドワードの両脚を自分の肩へと抱え上げ、繋がるために昂りを押し当てた。
「もうそろそろ黙って。舌噛むよ」
うっかり舌を噛んでしまうほど激しくするつもりだろうか?
ゆっくりと体を進められ、指とは比べ物にならない圧迫感がじわじわと広がる。今日もこのまま征服されてしまうのか。
「やめ……、い…痛い……っ!」
「えっ」
連日連夜抱かれていたせいか、本当は痛みなんかなかった。異物感と圧迫感を感じただけで。このまま抱かれるのが癪に障って、つい口にしただけだ。
アルフォンスが動かなくなる。
あんなに、あの手この手を使っても効果がなかったのに。たった一言で、アルフォンスを止めてしまった。
ただひたすら激しく求められているだけかと思っていたが、痛みを与えたくないと、ちゃんと考えていてくれていたのか。
お互い、ちょっと繋がったままで動けなくなる。
辛い。
こんな形で弟の愛情を感じて、でもこの状況での金縛りは勘弁して欲しい。
途中で止めないで動けとか、ちゃんと……その、い、いれろ、とか、言うべきなのか、それとも……ぬ…ぬけ? と言うべきなのか。
どっちもとても口になんか出来なくて、エドワードは不用意に言ってしまった今の言葉を後悔した。
ある意味愛を感じる瞬間かもしれない
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