兄の下着の中から出した手を、枕元へと伸ばす。
エドワードがその手の動きを追うのを見て、出来るだけ不安にさせないようにしようと、よく見えないだろう兄に何をしているのか教えた。
「ローションの瓶の蓋を緩めてるんだよ、手が濡れる前に開けやすくしておこうと思って」
「………」
「兄さん、あんまり暴れて瓶をひっくり返さないでね」
軽く蓋を乗せた状態でベッド脇のサイドテーブルに瓶を置こうとして、ふとその手を止めた。
「そうだ、いま使ってみる?」
「…は……?」
「繋がるときに使うだけじゃないんだよ。全身に塗ったりするの」
しかしエドワードは意味が分からないらしく、眉を寄せる。
12歳のときから大人の中にいて、思春期のあれこれも旅のどさくさに紛れてしまったせいか、性的なことに関して兄は疎い。人体のことは小さいときから詳しく勉強してきたが、性的なことは知識だけでどこまで理解しているのか。
最初の頃はさすがにコンドームは知ってても、ローションのこと知らなかったしな、とアルフォンスは思い返す。
子供の頃から男だらけの軍人の中にいて、どうしてここまでこういうことに免疫がないんだろう、と不思議に思ったりしたが、当時の兄はアルフォンスの体をとにかく一日でも早く取り戻したいと必死で、そんなことに現を抜かしている場合じゃないという体だったし、周囲の大人もエドワードの前ではそういう話題を避けていたのかもしれない。
そうして性に対する純粋培養のできあがりか、などと似たような条件だったのにもかかわらず不純培養だったアルフォンスは思った。
エドワードがこういう行為に早く慣れてくれるよう、あまり変ったことはしてこなかったが、これくらいは大丈夫だろうと、ほんの少しだけ瓶の中身を手に取る。
体に塗るのは初めてだし、と兄をびっくりさせないよう手のひらの上でそれを温めた。じっと動かないアルフォンスを、エドワードは訝しげに見上げる。
自分の体温に温まった粘度の高い液体を、アルフォンスは兄の胸にそっと落とした。
「もっといっぱい塗ってあげたいけど、最初だし、兄さんシーツ汚すの嫌がるから、すこしね」
右胸に落とした液体を手のひらで広げ、指で胸の先に念入りに塗り込むと、エドワードは躰を強張らせる。
「滑りがよくなって、さっきより感じた?」
指で愛撫しながら反対側へと舌を這わせると、びくりと身を震わせた。両手がアルフォンスの肩へと添えられ、耐えるようにその指先に力が入る。執拗に嬲っていると、兄はこらえ切れずに喘ぎを漏らした。
舌で転がして強く吸ったり噛んだりしながら手を下へと滑らせ、欲望へと変化し始めた場所を触る。布越しにでも分かるほどになったその場所を開放するために、最後まで身に纏っていた布地をゆっくりと取り去った。
「……兄さん…」
表情を見たくて視線を上げると、エドワードは下唇を噛んで何かに耐えるようにきつく目を閉じている。
アルフォンスは笑って、また唇を兄の肌へと寄せ身体の線を辿った。唇と舌で皮膚を愛撫しながら、下へ下へとおりてゆく。
「…アル……!」
兄の昂りを口にすると、驚いたのか悲鳴のような声を出した。
「やっ、やめ……!」
「どうして? 初めてじゃないのに」
嫌がってアルフォンスを引き離そうとする手を無視し、舌を出して丹念に舐め、唇で愛撫する。歯先で擽るようにそっと撫でてから強く吸い上げると、また悲鳴のような声を出した。
絶頂が近いのか、開放を求めて先端が滲む。必死に耐えながらアルフォンスの頭を引き離そうと、体を引こうとしたり脚を閉じようとしたりしてもがいたが、躰に力が入らないのか弱々しい抵抗にしかならない。
くちびると手で開放を促すと、切なげな声を出して耐え切れずに兄は昇り詰めてしまった。
荒い息を繰り返してから、慌てて身を起こす。
「悪い、オレおまえを汚し……っ」
悲愴な表情で弟の顔を持ち上げる。アルフォンスの面を汚してしまったと思ったらしいが、綺麗なままなのを見て一瞬動きを止めた。
「あ、ごめん。全部飲んじゃった」
エドワードは顔を引き攣らせるとアルフォンスの顔から手を離してベッドから出ようとする。
「帰る」
「うわあ、ちょっと待って! なに言ってんの!」
慌てて兄の腕を掴んでベッドから出ようとするのを阻止すると、シーツの上に押し倒して体を重ね、逃げられないようにした。
「帰るって何処へ。あなたの部屋ここでしょう」
エドワードは微笑ましいほど顔も首筋も真っ赤にしていた。
「おまえ分かっててオレの部屋に誘ったな!?」
「なに言ってるの」
「オレはおまえの部屋に行く!」
「それで僕は兄さんのベッドで一人で寝るって? 冗談でしょ」
覆いかぶさって、唇を重ねようとすると兄の手に阻まれた。
「キスすんなっ」
なんで、とくぐもった声で聞く。
「そんなトコに触った口で触んな!」
「汚いって思ってる? あなたの躰に汚いところなんてないよ」
「おま……おまえは……っ」
「唇にキスしちゃダメなら、また下の方にキスするしかないね」
体をずらしてまた脚の間に顔を埋めるような仕草をしてみせたら、慌ててそれを阻止しようとエドワードがアルフォンスの口を塞いでいた手を退かす。
アルフォンスはその手を掴むと体を浮かしかけた兄をまたベッドにまた押し倒し、唇を深く合わせた。
「んっ、んんーっ!」
上からエドワードをがっちり押さえつけて口の中を犯してゆく。兄を煽ろうとしたが自分が煽られていくのを感じる。夢中で犯し続けていたら、じたばたと暴れていた兄は次第に抵抗をやめ、アルフォンスの腕にしがみついてきた。
強く吸ったり口の中を舐め回したりしていると、エドワードが躰を震わす。呼吸も苦しくなってきたのか荒々しくなってゆく。自分も苦しくなってきたアルフォンスは、ようやく口付けから兄を解放した。
大きく胸を上下させている姿を、自分も息を乱しながら見下ろす。
「……兄さん…」
荒い息をつきながらエドワードは脱力して、ぼんやりアルフォンスを見上げた。
「僕が……本当に兄さんには優しくしたいと思ってるんだって言ったら、信じる?」
「……誰が……信じるか……」
「言うと思った」
アルフォンスは兄の前髪をかきあげて額にキスをすると、さっき蓋を緩めていた瓶に手を伸ばした。
指を濡らして、兄の中へと忍び込ませる。
「………ッ」
いつも辛そうに顔を顰める兄を早く楽にしてやるため、慣らせるよりも先に快感引き出せる場所を探って、奥へと指を進ませた。
エドワードは辛そうに、震える息を吐く。
「兄さん、大丈夫? もうちょっと我慢して」
「……おま、え、はっ、……いつも……そう、言う、のな……」
「そうだった?」
「…そうだよ」
「辛い顔をしてる兄さんもそそるけど、やっぱり可哀相だから」
「だったら……なんで………んんんっ、あ……っ」
「ここ? もうちょっと奥の方がいいよね」
「あ、……はあっ」
「だったらなんで なに?」
「だ……、だったら、なんで……こういうこと、すんだよ」
「男の本能かな。もっともっと、兄さんを抱きたい。壊さないよう気をつけなきゃいけないくらい、欲しいんだよ」
「なんで……」
エドワードはそこで言葉を切る。アルフォンスは指を一度抜いて濡れていない手を背中に差し入れ、兄の体を起こすと自分の体を跨ぐようにして膝の上に座らせた。後ろから濡れた指をまた中へと潜り込ませると、エドワードは高い声を漏らして、背を逸らす。奥への愛撫を繰り返しながら指を増やしてゆくと、今度はアルフォンスに抱きついてきた。
兄さん、と耳元で囁くと、それすらも快感に変換して震える。その躰を、空いていた腕で抱きしめた。
「ずっと片想いしてきたんだ、あなたに。ずっとずっと飢えてた。……あなたを手に入れた今も、まだ飢えてる。自分でも貪欲だって思うくらい。もっともっと欲しい」
「んん……」
「あなたの躰を自由に出来るんだって確かめたい。抱けるんだ、って」
「オ…オレの躰を、自由に、出来んのは……オレだろ……」
「僕だって出来る。兄さんだけの躰じゃないよ。……ねえ?」
「あっ。……てっ、てめ、え……ゆび、曲げんな…!」
「なんで? こんなに感じてるのに」
「……う…」
「もっと感じてよ。……僕に痴態を見せて」
「イヤだ」
「なんでそこだけ、はっきり言うかな」
「オレは、カッコイイ兄ちゃんで、いたい」
「僕にとっては妖艶な人だ」
「……おまえは、目が壊れてる……」
「正常だよ。今の兄さんを見れば、誰でも欲情する」
指を後ろから抜くと、兄の体をまたシーツの上へと横たえる。
次になにをされるか分かって、エドワードはくちびるを強く引き結んで、顔を逸らした。
嫌いにならないで 3
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