風が外の木々を揺らし、葉擦れの音を生む。
さわさわと静かに揺れる音が耳に届いてくるせいか、気付いたらオレは暗闇の中、目を開けていた。
ぼんやり天井を眺めて、窓の方を見る。
月光が部屋の中のカーテンを白く浮かび上がらせていて、ここが自分の部屋だと知れた。
オレは起き上がると、そっとベッドを出る。
毛布が素肌を滑る感覚で、自分がいま服を着ていないことを思い出した。
裸足のままぺたぺたと歩いて部屋を出て、まっすぐバスルームへ行く。
少し熱めのシャワーを頭から浴び、髪を洗って、体を洗った。
泡をすっかり洗い流した後も、そのままぼんやり頭から浴び続け、足元のタイルに流れ着く暖かい雨を眺めた。
ふと、足の付け根が目に入って、一気に顔に血が上る。
「あんのヤロウ………」
足の付け根に、アルにつけられた赤い痣が二ヶ所もあった。
なんであいつはこう、オレを赤面させることばっかりやるんだ。
そういえばさっき、強く吸われたかも、なんて思い出し、ついでに自分の乱れっぷりまで思い出して、更に赤くなりながらシャワーの勢いを強めた。
火照るほど温まってシャワーを止め、バスルームを出る。
タオルを何枚か使って髪を乾かし、今度はちゃんと寝着を着た。
裸足のまま自分の部屋へと戻りながら、胸のボタンを留めていく。
全部留め終わったころ、ちょうど自分の部屋のドアの前に来た。
そっと開けて中に入り、大きな音を立てないよう気を使いながらドアを閉める。
ぺたぺたと歩いてベッドに寄り、ひんやりした床に座り込んで、頭だけをベッドに預けた。
自分の呼吸の他にもう一つ、静かな寝息。
オレのベッドの中で、深い眠りについている。
月の光を僅かに弾く、金色の髪。ふわふわしてて猫の毛みたいだ。
起こさないようにそっと手を伸ばして、触れる。
「……アル」
アルが寝ているとき、オレは髪を触る。
手も足も身長も伸びて、骨格とか、目元や頬や首筋や顎の線がすっかり大人のオトコのものに変わってしまって、まあそれがオレをどきどきさせたりするのだが、この髪だけは小さい頃から変わらない。
瞳と同じ、甘い金の色。
さらさらしてて、指を絡めると気持ちがいい。
髪を撫でると毎回、かわいいな、と思う。
髪と同じ色の睫も好きだ。
睫の下には、やっぱりオレをどきどきさせる、優しい瞳が隠されている。
頬の触感は滑らかで、摺り寄せられると気持ちがいいし、胸が何かで満たされるような感じがする。
柔らかい唇を指先でそっと押すと、ぷにぷにという感覚が返ってくる。
起きるかな、と思いつつ、オレは唇をつつきながら、くすくすと笑った。
体が冷えてきたので、毛布をめくって潜り込む。
シャワーを浴びてる間にアルが動いたらしく、寝るスペースがさっきより狭い。
どうするかちょっと考え、オレはアルの胸に頭を乗せるようにして凭れた。
体をぴったりくっつけると、アルの体温がオレの体に移ってくる。
顔を上げて、もう一度寝顔を眺めた。
安心しきったような、子供みたいに無邪気な……。
なんだか胸が、ふわふわしてくる。
いいのかな、こんなかわいい寝顔、オレが独り占めしちまって 。
オレはちょっと伸びをして、アルの顎にちゅ、とキスをした。
アルの胸に頬ずりして、えへへ、と笑う。
ちょっと…………いや、かなり幸せかも。
すっげー幸せかも。
ついつい笑ってしまう口元をそのまま緩めながら、オレは、ぎゅ、とアルに抱きついた。
ホントに些細なこと
|